本日は、久しぶりの続きです。
その後の授業など早苗の耳には入って来なかった。
ようやく学校が終わり、帰宅を急ぐ早苗。
「ちょっと、早苗…。置いて行くなんて酷いじゃない。今日は部活が無いから一緒に帰ろうって昼休みに言ったよね。」
愛と幸音が早苗の後を追ってきた。
「…あ、ごめん。」
早苗は頭を下げた。
「伯父さんの本があって、早る気持ちはわかるが…。少し落ち着いたらどう。」
幸音がそう言った。愛もまた。
「そうだよ。ぼーっとしていたら…危ないよ。」
上の空の早苗を二人の友達は注意した。そして三人はいつもどおり、帰路についた。
だが、早苗はやっぱり頭がいっぱいだった。
幻想入りについて―諏訪子も神奈子も何かを隠している―それが昨日、話してみての直感だった。それがなんなのか―そして伯父が残した本―これに答えが書いてあるのでは?早苗はそう思った。いや、確信していた。
さて、いつの間にか早苗は家についていた。そして、玄関を開けると…目に飛び込んできたのは。
「…お客さん?」
そこには見慣れない女性物の靴が一足あった。ハイヒールの高級そうな靴である。
早苗は、どこか気配を消しながら自分の部屋に向かった。
その時、今から声がした。神奈子の声だった。思わず歩を止めて聞き耳を立てる早苗。
「―いつも悪いね。」
「これがないと、生活できないでしょ。」
聞き覚えのない声だった。それに諏訪子の声が重なった。
「―しかし、今回は自ら来るとはね。やっぱり別れたことを―」
「―私とあの人のことをとやかく言われる筋合いはありません
それに―人間の感情が【神様】に理解できるとは思えませんけど。」
声の主が、少しだけむっとしたように答えた。
「では―私はこれで―」
思いの外早く話は終わったようだった。慌てた早苗だったが、直ぐにふすまが開けられた。
座ったまま、ふすまを開けたのは一人の女性だった。
スーツ姿にショートカットのメガネを掛けたきつい目付きの女性だった。
「―すみません―」
瞬時に頭を下げて誤った早苗。一方の女性は何事もなかったように立ち上がると、部屋を出ていった。一言も発しないで。その様子に、神奈子も諏訪子も特に気にした様子はなかった。神奈子は、机の上においてあった厚い封筒を手に取るとタンスの中に入れた。
「ただいま―」
早苗はバツが悪そうに言った。
「おかえり。」
神奈子と諏訪子がほぼ同時に返した。早苗は、自分の部屋にカバンと借りてきた本だけをおいた。
「―いまの女性は?」
早苗の質問に、神奈子が淡々と答えた。
「―伯父さんの別れた奥さんよ。」
ええ!と小さい声を上げる早苗。内心はそれ以上に驚いていた。
「今月分を届けに来てくれたの。これがないと…生活できないでしょ。」
諏訪子はそう言って、先ほど神奈子が閉まったタンスを指さした。
早苗の記憶によれば―あそこには通帳や現金があった―
「いつもは、秘書が来るんだけどね。今回はどうしたのかな?」
「いろいろあるのでしょう―よ。」
諏訪子と神奈子はそう言って、特に気に止めた様子はやはりなかった。
しかし、早苗は衝動的にその女性の後を追っていた。
途中部屋に入るとあの、本を持って―
「―あっ!早苗!」
諏訪子が止めるのも聞かずに、早苗は行ってしまった。
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